Platinum Print
永遠を写す銀灰色の世界

プラチナプリント(正確にはプラチナパラジウムプリント)は、19世紀末に確立された古典的な写真技法です。通常の銀塩プリントとは異なり、プラチナやパラジウムといった貴金属を感光材として使用します。この貴金属が紙の繊維そのものに染み込み、画像を形成することで、数百年という時を経ても変わらない美しさを保つとされています。そのため「永遠のプリント」とも呼ばれるのです。


William Willis Jr.によって1873年に特許を取得されたこの技法は、Alfred Stieglitz、Edward Weston、Irving Pennといった写真史に名を残す巨匠たちに愛用されました。その独特な質感と永続性は、現代においても多くの写真家を魅了し続けています。私がプラチナプリントに出会ったのは、Irving Pennの写真集「Platinum Prints」を手に取った瞬間でした。そこに映る写真の圧倒的な存在感に、私は息を呑みました。単なるモノクロームとは違う「何か」がそこにはありました。
その後、半蔵門ミュージアムで開かれた井津建郎氏の「アジアの聖地 プラチナ・プリント写真展」を観覧し、大きなプリントの中に込められた『何か』を実際に自分の手で確かめたくなりました。プラチナプリントを作る過程は、私にとって祈りに似た行為です。支持体となる手触りの良いコットン紙に、丁寧に感光剤を塗り、デジタルネガを密着させ、UVライトで露光する。そして現像液に浸した瞬間に浮かび上がる像を見守る時間。それは、目に見えない記憶を可視化する魔法のような体験なのです。
プラチナプリントを楽しむ人が少しでも増えてほしい

デジタル技術が飛躍的に進歩した現代において、なぜ150年前の古典技法であるプラチナプリントを学ぶのでしょうか。それは、この技法が持つ唯一無二の美しさと、手仕事による創作の深い喜びにあります。
プラチナプリントは、単なる写真技術を超えた芸術表現の手段です。一枚一枚、手で感光液を塗布し、紫外線で露光し、化学反応によって画像を浮かび上がらせる。この工程の中には、デジタル処理では決して味わえない、創作者と作品との直接的な対話があります。
私がこのワークショップを開催するのは、この美しい技法を次の世代に伝えたいという強い思いからです。プラチナプリントは確かに手間のかかる技法ですが、その分だけ深い満足感と、他では得られない表現の可能性を与えてくれます。
現代社会では、情報の多くがデジタル化され、物質的な「もの」の価値が見直されています。プラチナプリントは、まさにそうした時代にあって、物質としての存在感と永続性を持つ貴重な表現媒体といえるでしょう。
今回のワークショップでは、プラチナプリントの歴史的背景から実践的な制作技法まで、包括的にさわり程度ですが、お話しさせていただきます。皆さまに、この技法の奥深さを理解し、それぞれの表現活動に新たな可能性を見出していただければと願っています。
また技術的な工程の体験を通して、手仕事による創作の喜びや感動を、ぜひ体験していただければ嬉しく思います。そして、プラチナプリントのより深い興味・関心を持っていただければ、これからの日本におけるプラチナプリントの有益性が増すのではないかと考えます。
ぜひ楽しいひと時を皆様と過ごせればと思います。